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リテールテイメント入門<2>小売業の近代化に大きな役割を果たした「セルフサービス」

自分で商品を選んでレジで購入する―いわゆる「セルフサービス」による販売は、日本の小売業を大きく進化させた。セルフサービスの反対語は「フルサービス」になるが、今ではこのフルサービス形式の店舗は、高額商品を扱う専門店に限定されている。酒類専門店のように、高級ワインやウイスキーは鍵付きケースで展示し、自由に持ち出せないようにしている店舗もある。スーパーマーケットの酒類売場でも「店格」を上げるために、値段の張るウイスキーなどを鍵付きケースで販売する店舗が増える傾向にある。

ところで日本の小売業が本格的に「セルフサービス」になったのは、今からおよそ50年ほど前のこと。若い世代は「セルフサービス」以前と以後の違いはわからないだろうが、その変化をリアルタイムで経験したものにとって、自分で商品を選べる店舗は画期的だった。それを主導したのは、業態としてはスーパーマーケットであり、東京・青山の紀ノ國屋など日本のSM1号店を標榜する店舗は、全国各地にかなりある。

紀ノ國屋国立店セルフサービス以前の街のお菓子屋では、新しいチョコレートが販売されても、商品を手に取ってみることは出来なかった。それに対して、約50年前から急増したセルフサービス形式のスーパーマーケットでは、自由に新製品を見ることができたから、それだけでも興奮もの。子どもにしてみれば、お小遣いは限られているから、お菓子をポンポン買えるわけではないが、手に取って見ることができるだけで、夢が膨らんだものだ。

生鮮食品ではもっと現実的な問題があった。例えば精肉の対面販売では、牛肉スライスは上のほうこそ赤身だが、下のほうは脂身が多く、帰って牛肉の包みを開けてみると脂身ばかりというのが「お約束」だった。今でも牛肉のパック商品の下のほうは脂身が多いが、セルフサービスであれば、なんとなくその程度を確認できる。これは肉だけではなく鮮魚、青果でも同じだ。つまり「セルフサービス」は、その販売手法そのものが、お客さまにその店舗の品質の確かさと、楽しさを提供する「リテールテインメント」なのである。

また小売業にとっても「セルフサービス」はメリットが大きかった。その最大のポイントは人件費が削減できたこと。フルサービスの店舗運営であれば、従業員1人が見ることができる売場面積は限られるため、その業種は宝飾品や高級衣料品、食品では鮮魚や精肉などの高額商品、菓子の銘店などに限られる。そうでなくても日本の小売業の利益率は低いので、もし販売技術として「セルフサービス」を導入していなければ、チェーンストアは成立していないし、仮にいくつかのチェーンが成立したとしても、日本経済を動かすほどのパワーは持ち得なかったはずだ。

リテールテイメント入門<1>ワンストップショッピングと関連提案

「セルフサービス」と並んで日本のスーパーマーケットの成長に大きく貢献したのが「ワンストップショッピング」だ。例えばSM以前は、日常のおかず材料の買物一つをとっても、商店街や関西では公設市場で、何軒かの業種店舗を回らなければならず、非常に不便だった。買物をしているうちに店主や従業員と顔見知りになり、世間話をするのが楽しくなったりもした。しかし、その一方で一人での買物が好きな人にとっては、商店街や公設市場での買物を苦痛と感じることも多かった。

そしてスーパーマーケットで、生鮮食品から日配、惣菜、菓子、加工食品まで多くのカテゴリーの商品を1か所で買いたいと考える人が多かったことは、その後のSMと商店街(公設市場)の成長ぶりを見れば一目瞭然だ。全国的にみると、有名商店街のいくつかは、まだ辛うじて残っているが、大部分の店舗が閉店してしまったシャッター街と化してしまったところの方が多い。関西の公設市場は、生き残りのためスーパーマーケット形式の店舗に生まれ変わっているケースも多い。

しかし、ワンストップショッピングが、最初から現在のように利便性が高かったわけではない。それどころか当初はかなり乱暴なやり方が横行していた。その一つが納豆の売場展開。地域によっては納豆は魚市場で仕入れてくるSMチェーンも多かった。そのため原材料が豆腐や油揚げと同じ大豆なのに、納豆を塩干売場で販売するスーパーもあった。これはお客さまの買物意識に合わせるのではなく、店舗の仕入れの都合に合わせていたということだ。

そして最近のスーパーマーケットのワンストップショッピングは、CVSやネット通販との競合を背景によりいっそうの進化を見せている。今では以前のように仕入れの都合に対応した売場づくりはなくなり、お客さまの利便性を重視した売場づくりが中心になっている。したがって青果、鮮魚、精肉、日配、惣菜、ベーカリーなどで構成された売場レイアウトのなかで、生鮮三品でもカット野菜、カットフルーツ、鮮魚売場の寿司、ミート惣菜など家庭でそのまま食べられる商品で、ミールソリューションを強化したり、商品カテゴリーごとの関連性を重視した売場展開になってきている。

ドンキホーテHDの西友買収はあるか?

ウォルマートが西友を売却するという報道が流れ、ウォルマートはお約束のように否定、やや沈静化したように見えたが、ドンキホーテHDの大原孝治社長が2018年6月期の決算発表会の席上「西友には興味がある」と洩らしたことで、再び火が付く形になった。

1956年11月に西武百貨店から分離して会社を設立、以後中央線沿線、西武線沿線でスーパーマーケットを多店舗展開してきた西友は、ダイエー、イオン、イトーヨーカ堂などに先んじてビッグチェーンとなっていった。野心満々の堤清二氏に率いられた西友は、東京を、やがて日本を代表するSMチェーン、GMSチェーンに成長していったのだ。つまり西友は、1950年代半ばから2000年代初頭にかけて、日本のSMチェーンとしてはエスタブリッシュメントそのものだった。

それが1989年に府中に1号店を出店以来、約30年の歴史しかない成り上がりのドンキホーテHDに買収されるというのは、日本人にとっては大好きなストーリーだ。しかも西友はここ15年ほどは、外資のウォルマート傘下にあったから快哉を叫んだ人も多かったに違いない。

しかし、ドンキホーテHDによる西友の買収は、それほど簡単ではなさそうだ。その理由の一つは、ウォルマートの西友売却額が3,000~5,000億円になるのではないか思われること。ドンキホーテHDの最近の実績は順調だが、売却額が5,000億円となると、かなりの借入金を積み増さなければならない。

また仮に買収金額は調達できても、西友にはGMS業態とSM業態があり、ドンキとしてはGMS業態の一部しか活用できない可能性もある。そうなると実質買収金額は高いものにつく。仮に買収後にSM業態を3~4社に分社化し、運営効率を上げようとしても、西友社内にもドンキにもスーパーマーケットを運営できる人材はいない。そのように考えると、ドンキホーテHD単独での西友買収は難しいかもしれない。

冷静に判断すれば難しいことがわかるドンキホーテHDによる西友買収だが、大倉社長の談話によってにわかにリアリティを持つようになった。それはドンキに運営の主導権が移ることによって、売上が大きく上向く店舗が続出したことも影響している。例えばダイエー立川店からドン・キホーテ立川店に転換した事例。ユニーの実験6店舗も1階の最も目立つ場所を、ドンキ方式の売り方に変えることで5割近く売上が伸びた。立川市錦町のファミリーマートも活性化した。

これはドン・キホーテの圧縮陳列をを採用することで品目数が増え、楽しく買物できるうえに、商品選択の幅も広がったから。逆にいえばGMSのように整然とした売場をつくったからといって、顧客に支持されていたとはいえず、売る側の自己満足に終わってしまっていたケースもある。

ドン・キホーテになって売上が伸びるのは、「夜店効果」もあるといわれている。ドン・キホーテの夜間営業は安田隆夫氏の時代にさかのぼるが、当初から高実績を記録した。それに対して大型GMSは、11時、12時までの夜間営業を行った時期もあったが、どちらかといえば店舗を開けているだけで、客数は増えなかった。ところがドン・キホーテの夜間営業は、マイルドヤンキーをはじめ昼間とは全く違う客層のお客さまを集客、売上を積み上げた。

つまりドン・キホーテは、圧縮陳列やPOPによるエキサイティングな売場づくりや夜間の営業で顧客の複層化に成功、売上は2018年6月期で9,415億円まで拡大してきたのだが、どうしてもディスカウントストアのイメージが抜けないため、広域商圏が必要。したがって、たとえ西友を割安で買収できても、現状の西友の店舗すべてを運営できるだけのポテンシャルはない。

楽しい旅行、楽しくない旅行

食品・雑貨&サービスの新トレンド今回から少し守備範囲を広げ、レストランや居酒屋などでの食事や旅行についても、エンターテインメントについて考えてみたい。私の出身地は淡路島(兵庫県)であり、観光立島を目指している部分がある。とはいえ、淡路島にいたのは18年余であり、東京暮らしの47年と比較すると、東京での生活のほうがはるかに長くなった。しかし、まだ島に兄姉や友人・知人が残っているので、事情が許せば恩返しをしたいと思ったりするが、なかなか厳しい。

今年6月にも神戸市西区へ行く用事があり、淡路島へも帰ったのだが、あまりエキサイティングではなかった。1998年に明石大橋が完成、神戸淡路鳴門自動車道が全通して、マイカーやバスでの移動が可能になった。淡路島の入ってすぐの場所にある淡路サービスエリア(SA)では観覧車が回り、それらしい雰囲気を出している。しかし、観覧車は土日祝日しか動いておらず、SAのレストランをはじめとする各施設は閑散としている。

6月に帰ったとき、淡路SAの食堂で、遅い朝食として天丼と小うどんのセットメニューを食べたのだが、残念ながら感想は、高くてまずかった。これはSA価格ということもあるが、国道28号線沿いのロードサイド商業集積地でも変わらない。これは1日の客数が都市部に比べると少ないから、価格を高くしないと利益が出ないという理屈だ。人口増加時代のロジックでもある。ただ高くてまずいものを食べさせられる客のほうはたまったものではない。逆にこのメニューがこんな価格で食べられるのかといった感動や、こんなめずらしいものを見ることができたという発見があれば、神戸から1時間以内で来られる淡路島はもっとリピート客が増えるはずなのだ。

最悪は夏の観光シーズンに高いお金を払ってホテルや旅館に泊まっても、エビフライやマグロの刺身が出てくること。最近淡路島では瀬戸内の近海魚が減り、食事を提供する側としては、皿数を確保しようとすれば、冷凍流通が整備されているマグロやエビに頼りたくなる。しかし、マグロもブラックタイガーも瀬戸内海では一切取れない。にもかかわらず、干からびたマグロの刺身や揚げるだけで一品になるエビフライが出てくると興ざめ以外の何物でもない。それよりも名産のタマネギや、最近増えているハモを使った一品が出てくる方がはるかにうれしい。

もう一つ淡路島の観光事業を見ていて感じるのは、淡路島を売り込もう、ファンになってもらって何回も来てもらおうという熱意が感じられないこと。最近、街を歩いていると「淡路島カレー」の看板やのぼりを見かけるようになってきた。現在「淡路島カレー」は、29都道府県の110店舗で食べることができる。この商品は、NPO法人淡路島活性化推進委員会が製造、(株)ビープラウドがNPO法人の会員になってくれたレストランやカフェに販売している。ただ現在の展開を見ると「淡路島カレー」というブランドが前面になっているあまり、「淡路島」そのものの印象が薄くなっている。

しかし、本当に大事なことは、観光客に淡路島に来てもらい、島の空気のなかで「淡路島カレー」を味わってもらうこと。これは北海道の夕張の空気のなかで食べる夕張メロンが最もおいしいといわれるのと同じだ。そのために例えばタマネギを1個まるまるグリルした「特製淡路島カレー」をつくり,このカレーを食べに淡路島に行ってみようかと思ってもらうことが大事。こうしてリピーターや交流人口が増えれば、淡路島のさまざまな産業が活性化、それが新たな会社の設立につながり、島全体の活力が増す。現在、島内で淡路島カレーは5店舗で食べることができるが、メニューの一品として扱っているに過ぎない。

できれば全国各地でラーメンをはじめとして、さまざまなB級グルメの有名店が育っているように、淡路島カレーも島内に有名店を育てたい。来日しているインドやパキスタン人に島内で起業してもらってもいい。その際重要なことは、国道沿いの便利な場所だけではなく、観光客がカーナビを見ながら、探し探し行く方が達成感があっていいということだ。

いなげや練馬関町店「開店50日祭」の反響

食品・雑貨&サービスの新トレンド2018年夏は、例年以上に猛暑に翻弄されている。西日本の大雨による水害、逆回りの台風12号、そしてそれ以外の日は、気温が35度を超える真夏日が続き、夜12時を過ぎても30度以下にならない熱帯夜も多く、今夏は疲れが取れない気候となっている。

そのような状態となっていることもあり、スーパーマーケットをはじめとする小売業は売上ははかばかしくない。東京でも早いときには朝7時台に30度を超え、昼2時台には連日35度を超える日が2週間近く続いた。この結果、ただでさえアイドルタイム化することの多い、昼2時頃から夕方4時頃までは、来店客は極端に減少する。カンカン照りの上からの太陽と、アスファルトからの反遮熱で、この時間帯に外出すると、熱中症にかかる確率は高くなる。

当然、小売業としては、あの手この手でお客さまの来店を促している。今年5月26日に開店したいなげや練馬関町店でも、オープン8週目の7月22日の日曜日に「開店50日祭」を実施、給料日前に、賑わいを喚起しようとした。

いなげやの「開店50日祭」のメーンになったのが午前11時から行われた「生本まぐろの解体実演販売」。開店から12時までのタイムセール商品として枝豆1袋198円、もも2個298円、国産味わい健康牛300g-1,000円などかなり思い切った価格設定になっていた。夕方のお刺身7点盛1,500円、仙台黒毛和牛サーロインステーキ半額セールもかなりのインパクト。ワイン15%引きセールはいうまでもなく、霧島湧水うなぎ長焼き一お1,780円も競合店と比較すると500~600円安かった。

しかし、いなげや練馬関町店の「開店50日祭」は、笛吹けど踊らずの状態で成功したとは言い難い。同店は千川上水をはさんで武蔵野市と練馬区の市区境にあり、住所は練馬区になる。しかも同店は18年12月には入居が始まる大型マンションの商業棟である。したがって500m圏内約5,000世帯のうち1割弱が未入居というハンデを持っての開店だった。つまりいなげや練馬関町店は、猛暑とマンション入居に先立つ先行オープンという二重苦が響き、厳しい推移となっているのだ。

今回の「開店50日祭」のうち、午前中のまぐろの解体実演販売は見逃してしまったが、午後2時過ぎに覗いてみた限りでは、集客は十分とは言い難かった。時間的に暑さのピークにあるため,店内はガランとしており、午前中のタイムセール商品もたっぷり残っていた。まぐろの解体実演販売のようなインパクトのある販促を実施しても、「開店50日祭」のようななじみのない販促では集客力は限定されるようだ。

EDLPに特化しすぎたウォルマート時代の西友

食品・雑貨&サービスの新トレンド2002年に西友と包括提携して日本に進出したウォルマートが、撤退するという報道が7月12日に駆け巡った。すんなり買い手が現れる保証はないが、すでにイオンやユニー・ファミリーマートHDの名前が上がっている。これでチェーンストア草創期のビッグチェーンがまた一つ消えることになりそうだ。最悪の場合は、しっかりした受け皿が現れず、いろいろな投資ファンドを行ったり来たりするうちに、西友のチェーンとしての形が損なわれてしまう可能性は十分ある。

あるいは「ザ・モール」などの大型店、駅前立地の多層階タイプの中型GMS、食品SM業態に分割され、バラ売りされることも考えられる。ユニー・ファミリーマートHDのユニーに出資して、中部圏を中心に「ドンキ」フォーマットの店舗の多店舗展開をめざしているドン・キホーテとしては、西友の中型GMSは、首都圏市場を強化するうえで、ぜひとも手に入れたい店舗群である。

ところで2002年にウォルマート傘下に入った西友は、PBでは「みなさまのお墨付き」などの西友のDNAを受け継いだブランドを開発したりしたが、全体的なイメージとしては、西友=ディスカウントSMとなっていった。この結果、生活のやりくりに苦労する年金生活者や地方から上京した学生などの支持者が増えていった。しかし、利益面ではウォルマートの基準では、西友は劣等生のままだった。2015年にはそれまでの合同会社を株式会社に改組したが、2年間は最終利益が赤字、2017年にはなんとかトントンとなったが、資本効率は低かった。

またウォルマート傘下の西友が楽しい店舗だったかというと「NO!」といわざるを得ない。ウォルマートのノウハウを導入して毎日安売りの「EDLP」を追求したが価格訴求は一度慣れてしまえば、インパクトは弱くなるもの。商品の安売りではオーケーやドン・キホーテのほうが一日の長があった。ちなみに最近の西友の価格は、アメリカ的なプラグマチックプライスではあっても生活歳時に関連したドラマはなかった。

ウォルマート時代とセゾン時代の西友を比較すると、セゾン時代のほうが間違いなく楽しかった。セゾン時代の西友は、新店として開店したときが、最も売場が充実しており、その後は売場が崩れていくだけと揶揄されることが多かった。ただ、いつ行っても価格の楽しみしかないウォルマート時代の西友よりは、並んでいる商品にしろ、売り方にしろ意外性があった。少なくとも「無印良品」を生み出した西友への期待感は、イオンやイトーヨーカ堂、ダイエーをしのぐ時代があったのだ。

東急ストア立川南口店の「にぎわい演出」の取り組み

リテールテインメント・プロモーションが確実に増えている。
JR中央線沿線各駅の昇降客数では、吉祥寺を抜いてトップとなったJR立川駅。青梅線はもちろん、多摩センターと上北台を結ぶ運行距離16Kmの多摩都市モノレールが1998年11月に開通して以来、それまでネックだった横移動もできるようになり、立川駅は商業ゾーンとして発展著しい。

その立川駅南口の一画にある大型商業施設「アレアレア」2階に出店しているのが東急ストア立川南口店だ。同ビルの3階にはラーメンスクエアが入っており、ラーメンスクエアビルといった方が、通りがいいかもしれない。

立川といえば、もともとはいなげやの地盤であり、最近ではヤオコー、マルエツなども立川郊外には進出してきているが、立川駅近くには駅ビルに食品専門店や成城石井など高級スーパーが出店している程度であり、駅近くで標準的な食材を購入するのは大変だ。

駅からの距離でいえば、最も至近距離で営業している標準的なスーパーマーケットが東急ストア立川南口店になる。これは同社が駅近物件に強みを持っているということも関係している。同社は立川商圏では後発だが、モノレール利用者も取り込める立地に、成算ありと踏んだのだ。ただ、立川駅は北口が表口であり、南口はどうしても裏口のイメージが付きまとう。しかも中央競馬がある週末には、場外馬券場がオープンし、雰囲気が悪くなるというハンディキャップもある。したがって、時々立ち寄るだけの筆者には売上は伸び悩んでるように見えた。

そのような停滞をブレークスルーするために、東急ストア立川南口店が取り組んだのが、売場でのにぎわい演出だ。同店では夕方4時になると、惣菜売場で焼きたて、切りたて、手軽な惣菜やデリカテッセン、鮮魚売場の刺身や寿司などを集めた「夕市」を、売場右ゾーンの通路で行っている。同時に、青果売場に続く第2コーナーからの通路では、平ショーケースを10台強用意して、試食販売やメニュー提案、価格提案などを実施している。たまたまいき合わせた7月7日の土曜日は、七夕ということもあって「七夕」「サマーバレンタイン」をテーマかして、「七夕そうめん」の試食や「七夕カレー」「七夕笹かま」などを提案していた。

結局同店の夕方4時からの夕市や試食販売では、ピークに時間帯には試食販売の要員、メニュー提案、ドライの催事食品、鮮魚、惣菜の各スタッフを合わせると、最大6~7人売場に立ち、それぞれの客寄せ呼び込みを行いにぎわいを出していた。このような取り組みがいつから始まったのかは、同店の関係者、もしくは日常的に利用しているお客さまに示唆をお願いできればと思う。

母の日プロモーション

今年の「母の日」は明日5月13日だ。今日の朝刊のチラシは「母の日」関連のものが多かった。

やはり「母の日」は売場で楽しいリテールテイメント要素の強い販促が必要だ。

アメリカから輸入した生活歳時で、最も広く浸透したのが「母の日」であろう。戦前は皇后誕生日の3月6日が「母の日」とされたが、さすがにこれは定着しなかった。第二次世界大戦後、アメリカと同様5月第二日曜日が「母の日」となった。しかし、本格的に普及し始めるのは、それからさらに10年以上たった1962年以降だ。同年森永製菓が「森永母を讃える会」を設立、販促イベント化してからだ。その後「母の日」は日本でも国民的行事となっていったことは、説明するまでもない。それに対して6月の「父の日」は誰が音頭を取ろうと、ほとんど普及しなかったのとは対照的だ。

「母の日」と「父の日」にこれほど大きな差がついた要因は、戦後の日本社会では父親の権威が薄れ、母系中心の社会に変化したことと無関係ではない。つまり祖母―母―娘と続く母系こそが本流となり、父系はどこか影が薄い。遺伝学の学者のなかには、男は精子を提供するだけの存在であり、出産が終わればお役御免となると決めつける人もいるほどだ。要するに「母の日」とは、1年に1度母系の絆を再確認する生活歳時なのだ。

しかし、催事としての「母の日」は、妻からすると自分の親はコミュニケーションをしっかり取り、欲しいものをリサーチしたうえで、プレゼントを選ぶことが多いが、夫の母親の場合は、どうしても疎遠になりがちで、最大公約数的な無難なプレゼントが多くなる。せめて夫の母親とも最低限のコミュニケーションを取り、プレゼントを選んだり、モノではなく食事に誘ったりする方が、本当は喜ばれる。

 

 

 

SNSをうまく利用する

リテールテイメント・プロモーションは大きな話題になるが、それが伝わる範囲が来店客だけにとどまっていたのでは、効果は半減する。「マグロの解体ショー」であれ、「本格ベーコン予約セール」であれ、イベントの実施を拡散できれば効果は増幅される。

しかし、既存メディアによる拡散は、地方のNo.1リージョナルチェーンでもなければ難しい。有力リージョナルチェーンや有力ローカルチェーンは、地方のテレビ局にマークされているので、テーマがその時期の話題性にフィットしていれば取り上げられる可能性はある。

ただこのような他人頼みのアプローチでは、確実性がない。そこで最近さまざまな企業や団地で力が入っているのが、SNSの活用だ。ツイッターに写真を添付してアップしたり、インパクトのある写真をアップロードできるインスタグラムへの投稿が増えている。「インスタ映え」という流行語まで現れるような状況になっている。

したがって、土日2日間にわたって実施するプロモーションを土曜日の朝撮影して、その後の予定も含めて投稿すれば、インスタグラムを見ているユーザーの目に留まる可能性が大きい。そのうちの何人かでも来店してくれれば集客数は上がる。

SNSをうまく利用するもう一つの方法は、ヨドバシカメラはすでに実施しているように店舗での写真撮影を原則フリーにし、お客さまにインスタグラムなどへ投稿してもらうこと。この場合、お客さまが売場の写真を撮ったからといって、SNSに確実に投稿される保証はない。ただ、逆の見方をすれば、お客さまがどのような取り組みを評価して、それを他社に伝えたいと思っているかがわかって、今後販促を組み立てる参考になる。

三つ目の手法は、店舗が主導権を取る第一の方法と、お客さま主体の第二の方法の折衷案だ。これはお店サイドが、インスタグラムに興味を持つ、何人かのお客さまに自店のイベントを投稿するように依頼する、いわゆるモニター型プロモーションだ。この方法は自店のイベントがSNSに上がる確率は高い。しかし、時間が経つに伴い投稿が義務的になり、インパクトがダウンする傾向があるため、タイミングを見てモニターチェンジをすることは不可欠だ。

店舗の効率化と人員の重点配備

2018年1月にシアトルでオープンした「アマゾン・ゴー」をはじめとして、レジ無人化を視野に入れた店舗が増えてきた。技術的にはまだ、いずれの事例も万全ではないが、このままいけば、あと数年のうちには、レジがなくても代金を決済できる店舗が現実のものになることは十分考えられる。

しかし、レジ無人化店舗=省コスト店舗ではない。なぜならシアトルのアマゾンー・ゴーも、レジはないが、デリの作業場にはバゲットサンドやプリパックサラダを調理するスタッフが、通常の店舗以上に多いそれだけオープン時の同店の客数は多かった。要するにアマゾン・ゴーでは、レジで省力化できた人員を、デリなど手間のかかる部門に回し、顧客は待たなくても食べたい商品をスピーディに購入できる店舗をめざしているのだ。

したがってスーパーマーケットが、リテールテイメントを強化することによって売上増をめざす方向性は間違っていないが、それを実現するためにはIT技術やAI技術を活用したオペレーションの効率化を同時に達成しなければならない。なぜならマグロの解体ショーをはじめとする実演販売や食べ方提案を絡めた旬の食材の販売などは、それができる人材が必要なため、当然コストアップ要因になる。それだけに売上アップでコストを吸収すると同時に、オペレーションの効率化で掛けられるコストを増やす必要がある。

そういう意味では、無人化レジへの切り替えは大きなコストが浮いてくるので、売場でエンターテインメント提案を実施する予算を確保できる。仮に1日12時間営業で、レジ8台のスーパーでレジがフル稼働すれば、レジ要員は8台×12時間=96人時となる。つまり月30日営業として2880人時となる。時給1000円とすれば人件費だけで約290万円、年金などの諸経費を含めれば大変なコストダウンができる。

もちろん無人化のための設備投資は必要だが、1回で済むイニシャルコストよりも、ランニングコストのほうがはるかに大きいことはいうまでもない。つまりリテールテイメントで来店目的を明確にしつつ、楽しく買物できる店舗を実現するためには、新しいテクノロジーを活用したオペレーションの効率化がどうしても必要になる。